ラベンダーさんの育て方

植物擬人化小説

第2輪 ラベンダー召喚2 【オレンジ】

おまえは、余がいままで出会った者の中で、もっとも不可能から遠い存在だ

ナポレオン

 

アロマ

 


「おい、そもそもどうして逃げるんだ!」

「馬花言わないで、私の仕事はマスターとして、世界大戦を止めることよ。精油計画なんて、あとからでもできる!」


(馬花っていうのは、植物界でよく使われるスラングだ。植物界はスラングが多い)


「それは他の精霊がなんとかするから大丈夫だ」

「被害を受けるのはこっちなのよ! 人材をもっと割くべきだわ」

そもそも事の発端《ほったん》はこうだ。

ラベンダーは精油を人間界に広める精油計画を一任されたのに、ずっとやろうとしなかったんだ。

世界大戦で人間を助けたり、戦場の憎しみを浄化したりするのは他の精霊の仕事なのに、あっちこっちで手伝わせてくれと奔走するから、とうとう見かねたジジイが、オレにラベンダーを説得するよう命じたってわけ。


(ジジイとはオレの師匠、『真の薫香』のこと。第六文明——アトランティス滅亡後の地球大混乱時代、サンタを含め多くの世界が人類の存続を反対する中、それを押し切っていまの第七文明を始めた強者。いつも戦いを挑んでいるが、勝てた試しがない。ちなみにジジイは、ドアを壊すとものすごい怒る)


「『日の昇る評議会』で決まったことだろ! おまえがとやかく言うことじゃない」

「上の連中は頭が固いのよ! 今回の大戦は今までのどの戦争とも違う、ほっとけば今に痛い目を見るわ!」

「困るのは人間だ。いちいちオレたちがああしろこうしろって言ってたら、自分で考える能力が育たない! 子どもに教えるときだって、自分で考えさせるだろ!」

「たかが200年しか生きてないガキンチョに、何がわかる!」

「うるせーババア!」

ラベンダーの放った《偉大な雷《いかづち》》が、オレのほおをかすめた。


(ヤツの得意魔法だ。《偉大な雷》は、カミナリをバリバリと放つ魔法で、ヤツが使うと紫の雷が出る)


すぐ手が出るのがヤツの悪いクセだ。

ヤツは次々に雷《いかづち》をオレに放ってきた。オレはペンタクルから出て外へ逃げた。

ケンカでヤツにはかなわない。


(幸い、霊界でのできごとなので、部屋の家具が壊れることはなかった。人間に当たったら即死だ。さっきのガトフォセも、本来攻撃に当たるなんてことはありえないんだが、ペンタクルの効果で人間界と霊界が繋がったせいで、不幸にも当たってしまったんだ。人間界と霊界の接続には成功したのに、肝心《かんじん》の自衛効果がないなんて、ツイてない)


「やめろベンダー(売女)」

「その名で呼ぶんじゃない!」

「ベンダーベンダーベンダーベンダー! はははは!」

「こっのライミー(ライムやろう)が!」

「残念! オレンジでっす〜」

リヨンの街を追いかけっこしたが、ラベンダーのほうが脚が速い。

このとき、オレはベンダーに追いつかれないよう、念力で通行人を転ばせたり、花瓶を落としたり、車の運転手にハトをけしかけたりして街中をパニックに陥《おとしい》れた。

しかし、最終的にはベンダーの念力に足が捕まり、転んだところを上からのしかかられ、完膚なきまでに顔面をボコボコにされた。


(どうしてマジメに仕事してるオレが、ここまで殴られないといけないんだ、イテテ。顔を殴るところがなくなるまで殴ると、ヤツはあろうことか、全身に蹴りを入れ始めた。その勢いはまるで、瞬く間にヨーロッパを征服したナポレオンのようだった。どんなに悲惨かわかるだろ? ——痛ッッッ!!)

そしてボロ雑巾のようになったオレをリヨンのきったない汚物だらけの場所に投げ捨てると、ベンダーは消えた。植物界へ帰っていったのだ。