ラベンダーさんの育て方

植物擬人化小説

第8輪 レイラインの追手

なあラフ、霊が通るからレイラインってのはどうかな?

 『黄金のリンゴ』

 

レイラインの様子

 

「おれを襲ったやつは、どんなやつだった?」
「一瞬のことだったからよく見えなかった」
「使えねー」
「うるせーよ」
 サンタは子供の姿になってるせいか、大人のときより無邪気で素直になっていた。さっきまで着ていたスーツとはちがい、いまは赤いサンタ服を着ている。
「サンタ、おまえが寝てる間にいろいろわかったことがある。サンタ界はおまえの言うとおり、まだあるかもしれないぞ」
「どうしたの?」
「マイナデスコールは知ってるだろう? それがここ一帯にただよってる」
「もしかして、爆弾でサンタ界をどこかへ吹き飛ばしたって言いたいの?」
「そうだ。爆弾かどうかは知らないが、マイナデスコールは周波数を下げる特性がある。まだ推測だが、それでサンタ界そのものの周波数を下げてここの空間と共鳴しなくなれば……どうなる?」
「サンタ界だけ堕ちていく……!」
 サンタはオレの推測に驚いた表情になり、今度は喜びと疑いが混ざったような顔になった。
「サンタ界が、まだあるかもしれない……。けど、世界だよ? 世界そのものの周波数を下げるなんてこと可能なの? っていうかそれで世界って移動すんの?」
「おまえの意見はもっともだ。だが見ろ、爆弾や兵器で世界を破壊し尽くしたとしても、サンタ界の残骸は残るだろ? しかしきれいに空間が丸ごとひきちぎられてなくなってる……。マイナデスコールを爆薬として利用したというより、その特性を利用して周波数を下げ、この次元から下へ堕としたと考えたほうが妥当だろ?」
「……」
「だから、おまえの言うとおりサンタ界はまだあるかもしれない」
「……」
 子供サンタは目に涙を浮かべて黙っていた。
 いままではなんの根拠もなくただ自分の気持ちだけでサンタ界がある、あって欲しいと妄信してる様子だったが、オレ様の実に具体的な推理を聞いてなんとも言えない気持ちになったらしい。
「オレンジ、ごめん」
「どうした?」
「きみにはひどいことをいっぱい、言ってしまった」
「気にするな、オレはただ、おまえと契約を結んだから手伝ってるだけだ。あやまる必要はない」
「それでも、おれはきみがいなかったら、考えなしにサンタ界を探してただろう。そもそも、オレンジはどうしてラベンダーの部屋に?」
「週刊ドコドコを読むためだ」
「あれまだ書いてたの!?」
「知ってるのか?」
「中世の頃にクリスマスプレゼントでもらったことがあるんだ。あれは出版するしないの話もあったんだけど、諸事情で流れたんだよ。……まだ書いてたんだ」
「おまえ、ラベンダーの彼氏なのか?」
「はぁ!? なんで? おれはてっきり、オレンジがラベンダーとつきあってるのかと思ってた。それかストーカーだと」
「ストーカーはおまえだろ、マノンからラベンダーのタオルをもらったとき、うれしそうにしてたくせに」
「やめろ」
「ヒュゥゥゥゥ」
「やめろって!」
「すんすん、はぁ、はぁ」オレはあのときのサンタの恍惚じみた様子をまねした。
「おいったら!!」
「わははは」
 サンタは顔を真っ赤にして怒ってる。からかいがいのあるやつだ。
オレはこのとき初めて、三太と心から打ち解けられたのかもしれない。最初こそ木に喰わないやつだと思ってたが、根は案外いいやつだ。からかわれて顔を赤くしてる小僧にオレは言う。
「三太、サンタ界を探すぞ」
「でも、どうやって? 堕ちたからって、単純にこの下へ飛んで行けばいいってわけじゃないでしょ」
「おまえ、オレをなんの精霊だと思ってるんだ?」
「植物――あ!」
「そう。匂いには敏感だ。マイナデスコールが原因で堕ちたなら、サンタ界自体にもマイナデスコールの匂いが染みついてるはずだ。それをたどって行けばいい」
「オレンジぃぃ」
「ほら、抱きつくな。ガキに抱きつかれてもうれしくない。早く行くぞ」
 オレはさっそく火の鳥に変身しようとして気づく。おっと、そういえば火はマズいんだったな。しかたない、もうひとつのお気に入りであるコンゴウインコに変身したオレは、勢いよく飛び立ち空に舞い上がる。
あとから三太もついてくる。三太はハヤブサに変身していた。
「こっちだ」
 マイナデスコールの強い匂いを感知したオレは、オーロラに向かって羽ばたき、紫色とオレンジ色のオーロラが混ざりあった毒々しい色の渦へと飛んでいく。

(サンタ界は落下したんだから下へ飛んで行かないの? と思う読者もいるかもしれないが、上の次元だとそう単純にはいかない。下へ行くにしても、いろんなルートをたどって行かなければいけないし、場所によっては上に行くことで下に行けるところもある)

 オレたちは大きな管の中に出た。ピンク、オレンジ、紫、ブラウン、緑、いろんな色が線だったり長方形だったり、何重もの円やよくわからない複雑な図形として流れている。フラクタル・アートのように芸術的で、中にはマーブリングのような大理石模様に見える場所もある。
誰かが作ったわけでもないのに、どうしてこんなに美しいんだろう。心を奪われる美しさだ。精霊に生まれてよかった。
だが見惚れるのは危険だ。なにせここは世界と世界をつなぎ、地球上のありとあらゆる場所に世界や次元を構成する物質を運ぶ、地球にとって血液の役割を持つ場所――レイライン。

(レイラインは日本語で龍脈と呼ばれている。龍が他の世界へ行くのに利用することから、龍の通り道とも呼ばれてるな。だが、オレたちは龍みたいに巨大な魂やエネルギーを持ってないから、正直キツい。レイラインにあまり長いこといると自我がなくなり、溶け死んで転生するハメになるから利用したくないんだが、まさかレイラインに出るとは思わなかった。
 誤解しないよう説明しとくが、オレたちの言うレイラインと英語のレイラインは、意味が全然ちがうな。三次元――人間界の英語圏にはちゃんと伝わらなかったらしい。英語のレイラインは、古代の遺跡群を結んでできた直線を指すだけの表面的な言葉になってしまっている。もっと深い意味があるのに。日本語の龍脈のように、世界や次元を構成する物質を運ぶ、血液の役割という深い意味があるんだ。それに直線だけじゃなく、曲がりくねっているのも含めてレイライン。
 ちなみにレイラインという名前の由来は、霊――物体を持たない物質が通る道だから霊Line。わかったか? くだらないネーミングだ。オレもジジイから聞いたときは肩から力が抜けた。誰が造ったかは知らんが、センスのかけらもない。ただのダジャレだ)

 レイラインにあまり長い時間いるのは危険だ。早いとこ出ていきたい。
しかし匂いはレイラインの奥へと続いていた。
「オレンジ、レイラインだぞ」
「わかってる」
「体がちょっと溶けてきた」
「がんばれ」
 コンゴウインコとハヤブサはスピードを上げてレイラインの中を進む。
するとふと、背後に何かの気配を感じた。少し様子を見てみたが、一定以上の距離を保って近づいてくることはなかった。
「オレンジ、あれ、どうするの?」三太が小声で話しかけてくる。
「サンタ界を襲ったヤツで間違いないだろう。捕まえよう」
「ここでやり合うの!?」
「静かに、向こうも条件は同じだ、レイラインでやり合いたくないと思ってるだろう。そのスキを突いて仕掛けよう」
 敵は強敵だ、覚悟しなければ。短期決戦にかける他ない。オレは三太に作戦を耳打ちした。
 どうやらサンタ界を陥れた犯人のおでましらしい。至上主義者だかなんだかわからんが、おまえのせいでオレは、こっそりラベンダーの部屋に侵入してるという秘密を三太ににぎられたんだ。この屈辱! おまえの魂をもって償ってもらう!
 コンゴウインコとハヤブサはかなり飛行速度を落とし、ゆっくりと羽ばたきながら言い争い始めた。
「おまえがもっとしっかりしてれば、サンタ界は滅ばなかった!」
「なんだと、この雑草! ニンゲンに根絶やしにされちまえ」
「――おまえがマヌケなせいでサンタ界は消滅したんだ、能なしサンタが!」
「だまれ、ストーカーめ! ラベンダーのケツでも追いかけてろ」

(演技とはいえ、いまのはグサッときた。それに雑草って言葉も。あとで覚えてろよ、ラップ野郎が)

 いまだ! 追手の困惑した気配を察知した瞬間――
 コンゴウインコは予備動作なしに近い状態で身をひるがえし一気に最高速度に達すると、敵に向かって飛んでゆく。手に取るように相手がビビッてるのが伝わってくる。敵はニワトリの姿に変身して飛行していた。
 コンゴウインコはそのクチバシを自分の体よりも大きく伸ばし、ホオジロザメのようなギザギザの歯が生えたクチバシを大きく開けてニワトリの体をおおった。勢いよくクチバシを閉じようとしたところで――「やめてオレンジ! キャァァ――」
 クチバシの中で嫌な味がした。
…………。
 コンゴウインコは急ブレーキをかけたクチバシを急いで開けて、中のニワトリを吐きだした。
体が赤く染まったニワトリを視て、オレは言葉を失った。
「なんで、ここにいるんだ……?」
 ニワトリはふらふらしていて、苦渋の表情をしている。羽ばたきにも力がなく、弱々しい。
姿はニワトリだが霊視すると本当の姿は……。
「どうしてここにいると聞いてるんだ、マノン!!」
 ニワトリは体をかたむけ下に分かれたレイラインに落ちていった。意識を失っている。
「マズい!」
 翼を下に向け急いであとを追う。だが――「オレンジ、止まれ!」
目の前を〈ドコドコさん〉が通り体が硬直する。「――!!?」
 しかし誰かが作った工作だとわかると、オレは怒りのままに拳をにぎり爆破した。マイナデスコールが反応して爆発する恐れがないとは言えなかったが、この空間でのマイナデスコールの量はさっきの元サンタ界よりも少ないとわかってたし、もし連鎖爆発したら、そのときは、レイラインが破裂するだけだ。誰が捨てたのかわからんが、〈ドコドコさん〉の工作に木を取られたせいでマノンを見失った。
「どこだ!?」
 ようやく遠くに小さなニワトリを見つけたオレは、レイラインを流れる物質に行く手を阻まれつつも、徐々に距離を縮めていき――
「マノン!」翼を伸ばしてマノンの体を――
 確実に捕まえられる、そう思ったとき。オレの翼はかすっただけだった。急にマノンの体がオレの翼をよけたのだ。何かにひっぱられてる。なぜかオレも。
 前を見ると、リヨンのフルヴィエール大聖堂がすっぽり入りそうな大きな光が、円を描くようにうずまいている。まぶしさに目がくらんだ。あの光に吸いこまれれば、どんな世界へ出るかわかったもんじゃない。オレは二の足を踏んだ。後ろを確認すると三太とはまだ距離がある。が、マノンが先に行く以上、自分も一緒に行くしかない。
 引力にとらわれたマノンは光に向かって進路を取っていたので、捕まえるのに手間はかからなかった。オレは全身全霊の念力をこめて後ろに一枚のカードを投げる。オレンジ色のカードは光の引力に逆らいつつ飛んでいたが、徐々に勢いをなくし、とうとう光にひっぱられ始めた。
ハヤブサがカードをくわえたときと白い光がマノンとオレの体を包んだときは同時だった。
 オレはマノンを抱きこむと衝撃に備えた。