ラベンダーさんの育て方

植物擬人化小説

第5輪 始動、精油計画3 【ラベンダー】

あの子は目立ちすぎた。
大人になれないのに、いまや狙われる存在だ。
戦争には参加させられないが、応援してあげたいんだ

ミルラ

 

ミリタリーファッション

 


ラベンダーはウンザリした。

あーあ、また始まった。この二輪は、いっつもケンカするんだから。

紀元前の学生時代、この花たちに教わっていた頃からそうだ。

『没薬《もつやく》』——ミルラがどなった。

「他の世界も手がいっぱいなんだ、しょうがないだろ!」

「今や星論も至上主義者に傾き始めてる! アトランティス文明と比べてみろよ!」

「『魔法の粉』! 終わった文明の話なんか持ち出すな!」

「科学的にも、精神的にも、何千年たっても今回の人類は子供だ! ヤツらは自然と調和して生きることを知らない、自分たちが地球に住んでいるっつー自覚がないんだ! アトランティスは何万年も続いたのに、今回のヤツらは、もってあと数百年だろ! だったらもうサポートなんかやめようぜ! 終わるヤツらに手ェ貸したって、時間と労力のムダだ!」

「なんだと! あの残酷な地球大混乱時代、他の世界が反対する中、それを押し切って第七文明を始めた我々が、それを言うのか!!」

「他にやることはいっぱいあんだろ、自然の浄化とか、今までの戦争の憎《にく》しみの浄化とか。地球さんが抱えた憎しみの借金を少しずつ減らさねえと、人間だけが平和になってもしょうがねえじゃん。なあミルっち」

ラベンダーは頭を悩ませた。

シナモン先生は、怖いし武闘派だし、やさぐれてるけど、まともな意見を言う花だ。ミルラさんも黙ってしまった。

「…………いや、礼名《れいめい》で呼べよ」

やることはいっぱいある。それなのに、ニンゲンの支援をするべきなのか。私たちは、自然に従事《じゅうじ》する精霊として、本当に仕事を果たしているのだろうか。

『日の昇る評議会』に何回かゲストとして参加してわかったが、状況分析からするに、今までにない大きな戦争が起こる可能性は極めて高い。

なのに、そこに自分が参戦することは、どうもできないようだった。

次の大戦で地球の精霊の多くがサポートにまわってしまえば、他の場所がおろそかになってしまい、人類の戦後の立ち直りや土地土地の浄化作業の遅れ、精霊界のパワーバランスの崩壊、あるいは地球にとっての外敵の侵入を許すことに繋《つな》がってしまう。

自分には、アロマ連合の一角を担《にな》うマスターとして、大戦での衛生業務は下の者に任せ、他の部分をサポートしてもらいたいと評議員の面々《めんめん》から言いくるめられた。

結局、大戦への参戦を認められないまま、意見という意見を言い尽くしたラベンダーの努力は、徒労《とろう》に終わってしまった。

最初に参加した『日の昇る評議会』でわかったことだが、すでに大戦に参加する衛生班の編成は、終わっていたらしい。

大戦に参加できないのを承知の上で、
マスター・ミルラはラベンダーを『日の昇る評議会』に招待したのだ。

きっと昔のよしみで同情してくれたのだろう。彼を恨《うら》む道理はない。

ラベンダーはイスにのけ反《ぞ》りながら言った。

「あーもう疲れた。どっちでもいいッスよ」

サポートしたいミルラ。見殺しにしたいシナモン。

ラベンダーはもうくたくただった。会議に疲れて、早く家に帰りたいあまり、発言する気なんてないのに、つい口を開いてしまった。

もう、師匠に破門されてもいいや。

シナモンとミルラがにらんでくる。

だが、疲れるあまり、怖いとも感じなかった。

「まとめると、人間のサポートしたい、でも、人員を割くのはムダってことでしょ。だったら精油でも発展させて、人間に自分たちで心の浄化してもらえばいいんじゃないッスか? で、人間たちに余裕ができたら、自然にも関心を持つよううながして」

「『洗い草』」

グランド・マスター『真の薫香《くんこう》』が口を開いた。

せっかく手に入れたマスターの地位も、こりゃ剥奪《はくだつ》だな。

ラベンダーにとって、もはやどうでもよかった。世界大戦への参加も、自然や地球のことも。

——ラッキー、これで仕事が減る! 

「その意見、採用《さいよう》」

「え?」

「一任《いちにん》するから、やってみなさい」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

ラベンダーの師匠、『銀の狐』も口を開く。

「私も良い案だと思う。戦争は気にしないでいいから、やってみなさいラベンダー。《《まかせたぞ》》」

ラベンダーは何も言えなかった。どうあがいても口論では勝てないからだ。
絶対に逆らえない相手だ。

『日の昇る評議会』終了後、ラベンダーの中で今回の話はなかったことになった。

——そんな仕事は誰だってできる!
私の仕事は、マスターとして戦争をなんとかすることだ!

そして数年後の1914年——
【サラエヴォ事件】が起こると。

——【世界大戦】勃発《ぼっぱつ》——


(クイズの答え合わせよ。

『真の薫香《くんこう》』——オリバナム
『没薬《もつやく》』——ミルラ
『癒《いや》す者』——カモミール
『魔法の粉』——シナモン
『銃火器』——サンダルウッド
『銀の狐』——銀狐
『退魔の草』——麻子
『貴族の花』——藤《ふじ》
『星の王子』——バオバブ
『待つ者』——レバノン
『海賊《かいぞく》』——オリザ
『嵐の大軍』——タンブルウィード
『独裁《どくさい》者』——ポテト
『首領《しゅりょう》』——サカキ

by バイオレット)