ラベンダーさんの育て方

植物擬人化小説

第1輪 ラベンダー召喚1 【オレンジ】

ニンゲンなんて死ね死ね! 
どいつもこいつも、死んじゃえばいいんだ!

ラベンダー

 

魔法円

 


「なあオレンジ、ペンタクルって、こんな感じでいいのかい?」

「うーっん。まあ、いんじゃね」

オレさまと人間のガトフォセは、ガトフォセ家で楽しく仲良くペンタクルを2つ書いていた。出来はといえば正直、子供が夏休みの自由研究で作ったゲームやらアプリの方がよっぽどマシ。


(ペンタクルとは天使が発明した魔法陣のこと。精霊を召喚するための図形で、五芒星やら六芒星が描かれてる。どうして2つペンタクルが必要なのかって? ひとつは精霊を召喚するための大ペンタクル。もうひとつは、自分たちの身を守る小ペンタクルだ。ラベンダーは凶暴なので、これに入ってないと襲われちまう。勘違いしないでほしいが、本来召喚魔法は難しいし危険なので、専門家以外は使わない。だが今回は例外。精霊が移動するときは、大抵ポータルを使ったり、UFOに乗ったりする。サンタはソリとかな)


よし、これでOK。まあ、雑なペンタクルだが、呼ぶのはラベンダーだ。問題はない(と思いたい)。

このときのためにオレは長ったらしい呪文を覚えたんだ。

今回、ラベンダーを呼び出すためにオレの師匠、『真の薫香』が特別に編んだ呪文だ。

複数の霊言語からなる地球の惑星プログラムの呪文の中には、ラベンダーの礼名と、魂の名が組みこんである。との話だ。

オレも詳しいことは理解できなかったが、つまり、この呪文を詠唱すればやつが強制的にペンタクルの中に呼び出される仕組みってわけだ。


(これは精霊にとっては本当にイヤな話だ。地球には異世界やパラレルワールドがたくさんあるが、中には精霊を奴隷のようにコキ使う人間の世界もあるらしい。オレたちの世界では、精霊が人間の奴隷になるなんてありえないし、そもそもペンタクルで呼び出して使役なんて不可能だ。三次元で作ったペンタクルに効力はない、ただの絵だからな。

効力があるとしたら、今回みたいに仕事しない精霊を無理やり呼び出す場合だな。人間が書いたペンタクルを霊界の世界で精霊がなぞり、協力して呼ぶんだ)


「じゃあ詠唱するから、おまえはそこで聞いてればいい。ペンタクルからは絶対に出るなよ」

「まさか、こんな瞬間に立ち会えるなんて」

「ワクワクしてるな」

「するでしょ、だって召喚なんて、ずっと夢見てたんだもん」

「霊感があってよかったな」

34歳のオッサンが、年甲斐もなくワクワクしてるのが空気を通して伝わった。

オレは長い詠唱を始めた。20分後。
詠唱を唱え終わったオレは、空気とエネルギーの流れが他の時空、次元と繋がったのを感じた。しかし、ペンタクルの中にラベンダーの姿は現れなかった。

失敗した……?

「オレンジがドラゴンなんかつけ加えるから」

「だってペンタクルにドラゴンや盾の紋章が入ってたら、デザインとして映えるだろ! 呼び出されたヒトの気持ちを考えてだな——」

そのとき——

ペンタクルの中には、白いワンピースの少女が立っていた。
紫の髪を逆立てて、ご立腹といった様子で腕を組んでいる。

「おまえ! おまえ!!」

よかった、大成功だ。本人も大好きなオレに呼ばれて大喜びらしい。


(上級の召喚魔法にもなると、飛行機のビジネスクラスやファーストクラスのような最高の居心地でペンタクルまで送られるらしいが、今回のような低級な召喚魔法だと、運が悪ければ、変な場所に落っこちることさえある。異世界ぐらいだったらまだいいが、言葉では表現できない場所に飛ばされて帰って来れないなんてことも。人間の諸君、見えないものを召喚するときはくれぐれも気をつけろよ。もし、ペンタクルを描いて精霊を呼び出しても出てこない場合は、それは失敗ではなくもしかしたら……。考えただけでも恐ろしい)


「ガトフォセ、やったな! 生きててくれてよかったぜ。ほっとした」

「え、そこにいるの? ぼくには何も見えないよ」

「おいラベンダー、姿を見せてあげろよ」

「あ、うっすらだけど、輪郭が視えた。もしかして、体が紫色だったりする?」

「お、センスがいいな。だが惜しい、それは髪の色だ」

ガトフォセはなんとかラベンダーを視ようとしていた。

「おい柑橘《かんきつ》やろう、これは一体どういうことだ……」

和やかなムードをぶち壊す、最悪なトーン。
だけどオレさまはへこまないぜ。なんてったってオレンジだから。

「どうした? 気分でも悪いのか? そのペンタクルのドラゴンが気に召さないか? 細部まで書き込むのにだいぶ苦労したんだぞ」


(自分で言うのもなんだが、オレは絵が上手だ。ちなみにこのドラゴンはロンドン市の紋章で、翼を持つ2頭の銀龍が赤い十字架の盾を支えている。図形だらけのペンタクルとマッチするように、しかしデザインを映えるようにするため、1日かけて丁寧に描いたんだ。まあ、人間界でもガトフォセが同じものを描かないといけないため、完成に一週間はかかってしまったが。弱音を吐くやつを、オレは何度も励《はげ》ます必要があった。これで召喚に失敗したら、友情に傷が入っちまう)


「信じられない! 何このペンタクルは! あなた、私を殺す気!? 自分が何やってるのかわかってるの!?」

「ドラゴンじゃなくて、リヨンのライオンのほうが良かったか? 悪かったな」

「うん。——そうじゃない! もう少しで魂が引き裂かれるとこだった! 余計なデザインはつけ加えてるし、召喚学の観点から言っても、雑すぎる。魔法は言葉みたいに通じればいいってもんじゃないだろうが!」

「だが、成功はした。そもそも、おまえが仕事をサボらなければこんな目にあわずに済んだだろ」

「いまどきこんなアナログな方法で呼び出されたんじゃ、悪魔だってたまったもんじゃない! 客人をもてなそうという気持ちがまるでない!」

「気持ちだけはあった! だからドラゴンを描いたんだ!」

「ドラゴンから離れろ、フルーツ! しかもこのドラゴンは、ロンドンの紋章じゃん! おまえが好きなだけだろ! 私はライミー(イギリス人の蔑称)が嫌いだって何回言ったらわかんだァ!!」

ガトフォセが言った。

「ほら、やっぱりライオンにしとけば良かっただろ」

「待て、おまえだってドラゴンのほうがカッコイイって言ってただろ」

ラベンダーがキレた。

「どっちでもいーわ!! そして何よりも許せないのは、あなたのせいで、私の本当の姿がニンゲンに見られたってこと!」

「いいじゃないか。こいつは仕事仲間だ、これから一緒に精油を広めていこうぜ」

「初めまして、ガトフォセです」

「ニンゲンめぇ!」

ラベンダーは指先から《地獄の業火》を放った。すると、ガトフォセは火だるまになった。

オレは叫んだ。

「何するんだ!? 死んじゃうだろうが!」

「ニンゲンなんて死ね死ね! どいつもこいつも、死んじゃえばいいんだ!」

どうやらベンダーの言うとおり、オレたちの作った渾身のペンタクルは、雑なためかあまり効力を発揮してくれないようだ。おかげで友達が火だるまだ、とほほ。


(ちなみに、人間を殺すのは霊の世界では犯罪にならない。グレーゾーンではあるが。え? なんだその顔? そりゃあたりまえだろう。ブタやウシを殺しても、人間だって罪に問われるか? だからって、それなりの地位の精霊が人間を殺しまくれば、問題にはなるが)


もがいていたガトフォセにすぐさま憑依し脳の権限を掌握《しょうあく》すると、オレは庭の芝生《しばふ》で転がりまくった。火は消えたが、上半身は大やけどだ!

「くそったれ! あともう少しで殺せたのに!!」

ラベンダーが地面を蹴る。

ガトフォセは、近くの人の助けで病院へ搬送された。

部屋には14歳ぐらいの少年と少女だけが取り残された。

「最低な女だ、狂ってる! こんなのがマスターだなんて」

「ふん、ニンゲン迎合組め!」

ちなみにこの日、ガトフォセの第一子が誕生した。おめでとう。


(実話だ。物語だからフィクションだし、年数も五年ほど変えているが、頭が燃えてハゲになった日、第一子が誕生したのはまぎれもない事実だ。やつも災難だったな)