ラベンダーさんの育て方

植物擬人化小説

第3輪 始動、精油計画1 【ラベンダー】

『洗い草』は大人にこそなれませんが、彼女には経験があります。それにとても魅力的です。ミツバチが蜜を求めやってくるように、ヒトが集まってくるんです! 植物至上主義者が勢いを増すいま、彼女を失えば、アロマ連合を離れる花もあとをたたないでしょう
力がないなら、みなで支えれば良いのです!

ローズマリー

 

とぼけたラベンダーの顔

 


『日の昇る評議会』

地球における第1級世界である植物界の最高意思決定機関だ。

管理下には外敵への対応、および治安維持を目的とするアロマ連合がある。

エジプトの植物界にあるアロマ連合本部では、評議員に選ばれたアロマ連合のマスターたちが話し合っていた。

グランド・マスター『真の薫香』をはじめ、重鎮達が円卓テーブルの席に着いている。

そこには、ラベンダーの姿もあった。

ラベンダーは緊張していた。マスターになって100年あまり。評議員のメンバーではないが、ここ数回はゲストとして招かれていた。

しかし、長居はしたくないというのが本音だった。

なぜなら、ここ『日の昇る評議会』は【ヨーロッパの火薬庫】の異名を持つバルカン半島並みに恐ろしい場所だからだ。それほどまでにさまざまな格好、価値観の違う精霊たちが入り乱れていて、一触即発の状態なのだ。

ラベンダーはちらりと、狐耳の銀髪の青年を見た。

ウワサによると、昔ここである神霊が殺されたらしい。

しかも殺したのが、うちの師匠だとか。

あの花だったらやりかねない。ラベンダーは、修行中に本気で殺されそうになったことを思い出し、ウワサをウソだと信じることができなかった。

何を考えているかわからない無表情。冷淡な瞳。鋭い眼光。

どうしてこんな場所に来てしまったのだろうか。

ラベンダーは思い返してみる。

マスターになったのに、ろくな仕事をまわしてもらえず、やることと言えばナイト時代と変わらない。いや、むしろ自由に動けた分、ナイトだった頃のほうがよかった。華々しい功績の数々。それも今やなつかしい過去になりつつあった。

かつては【エルサレムの大悲劇】でソロモンを助け、【百年戦争】ではエグザゴンヌ(フランス)をライミー(イギリス人の蔑称)どもから救い、17世紀の【第5次ペスト戦役】では、誰も成し遂げることのできなかったあの大ペストを、ついに浄化することに成功。

数々の華々しいキャリアがあるにもかかわらず、自分を主戦力から遠ざけようとする『日の昇る評議会』に、ラベンダーは信じられない気持ちでいっぱいだった。

老害どもめぇ! 1日に何回も、心の中でそっとつぶやいた。

そもそも、自分がマスターになるのだって、相当な時間を要した。

【第5次ペスト戦役】で大ペストを浄化。本来であれば即マスターに昇格してもおかしくない功績なのに、師匠を中心に上のマスターたちときたら、称える|《たた》だけ称えたあとはだんまりを決めこんだ。

理由はわかっている。それは自分が〝成長〟できないからだ。

〝成長〟というのは大人に変身する技術だ。

精霊は人間と違い、肉体がない。なので、変身してさまざまなものに姿、形を変えることができる。

しかし、自分の姿を大人に変えることは至難の技だ。なぜなら、精霊は大人に変身することで、自分の実力を全身全霊発揮することができるからだ。

成長できない自分についたあだ名は、〝咲かずの花〟。他には〝ゼンマイ少女〟。

ハガール(Hagirl 造語。ババア少女という意味)なんて失礼なことを言うヒトもいるし、最近だと、人間界で——しかも憎《に》っくきライミーたちの間で流行りのピーター・パンから取ってピーター・ラベンダーとも言われた。無神経でイジワルな笑いに枕《まくら》をぬらすことなんてしょっちゅう。

大人に成長できなければアロマ連合のナイトになることはおろか、事務員にすらなれない。

ラベンダーがナイトなのは異例中の異例だった。

周りの精霊たちからも、そのうちなんとかなると励《はげ》まされ自分でも鍛錬《たんれん》はしていたが、時は刻々《こくこく》と過ぎて、迎えたのが17世紀の【第5次ペスト戦役】。

仲間たちと大ペストに追い詰められてもうダメかと思ったとき、一瞬だけ大人になることに成功し、大ペストを一気に浄化。

それ以降、いくら頑張っても大人に変身することはできなかったが、上司であり戦友のローズマリー、そして先輩のアンジェリカ。他にもたくさんの花たちが署名を集めて『日の昇る評議会』に抗議し、植物界のメディアが報じたことをきっかけに、一斉《いっせい》に住民たちからの批判も集まり、ついにはマスターに昇格したのだった。

しかし、ラベンダーは不満だった。昇格はしても、仕事がほとんどない。飼い殺しみたいなものだった。

自分のことをおもしろく思ってない精霊たちがいるのは、ラベンダーもうすうす感じていた。

マスターになり、功績を称えられてはいるが、連合の中央からは遠ざけられている。左遷も同然の扱いだ。

そこで、自分から仕事を求めしつこく『没薬《もつやく》』に頼みこんでみた。学生時代にお世話になった教授《プロフェッサー》・ミルラ。彼が1番説得しやすい。アロマ連合の戦力として自分をプレゼンするには最適の花だった。

「そこまで言うなら、力になろう。だが、私の仕事はすでに人手が足りている。『日の昇る評議会』にゲストとして招待するから、自分で他のマスターを説得するんだ」

ラベンダーは意気ごんだ。

——見てろよニンゲン! これ以上テメェらの好き勝手にはさせねーぜ! 絶対に世界大戦への参戦権を手に入れてやる!! どいつもこいつも皆殺《みなごろ》しだ!!