ラベンダーさんの育て方

植物擬人化小説

第3輪 サンタの三太

サンタクロース? あっははは! そんなもんいないいない
ニンゲンが作った偶像さ

 

 マノン・ガトフォセ
1999年――日本人少年に対しての発言
(『ラベンダーさんとマノン・ガトフォセ』より抜粋)

 

〈ドコドコさん〉の写真

 

楕円形の執務室には、ズッシリと積まれた本とパソコンが置かれた長方形の黒いデスクがあり、ひとりの男が座っていた。部屋にはガスのように危ない空気がただよっている。


男は白いシャツに赤いネクタイを締めていた。しかし、洗いたての清々しいシャツとは反対に、男の顔や肌はインクでぬり潰したように真っ黒だった。唯一真っ黒でない箇所といえば、目の色だけだ。ぼんやりと黄色い光を放っている。


男は口を開いた。
「君には失望したよ、バウムクーヘン州知事」
「ま、待ってください、プレジデント〈ドコドコ〉!」
「私の部下に使えないものはいらないんだ」


そう言うとプレジデント〈ドコドコ〉は引き出しの中にあるスイッチを押した。
途端に床に穴が開く。
「ぅアっアアアァァァァァァァァァ!!?」


バウムクーヘン州知事は穴の中へ消えた。彼の悲鳴が金色のカーテンをわずかに揺らす。
「おまたせ子猫ちゃん。使えない部下を持つと苦労するよ」


プレジデント〈ドコドコ〉は自分のヒザの上に女を乗せて、胸を触りだした。

「アッハッハッハッハ! 怖ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 怖ええよ! なんだよバウムクーヘン州知事って!?」


11月も残すところあとわずかとなったある日。
オレは週刊ドコドコを読んでいた。


このクソ漫画、毎週毎週一話限りの話を数ページ、作者であるラベンダーが描いてくれるのだが、今回の〈ドコドコさん〉はどうやら大統領らしい。
それにしてもなんだよバウムクーヘン州知事って! 
 

名前のネーミングからもうすでにツボだ。人が死なない回はなく、たとえどんな状況であろうと最終的には〈ドコドコさん〉が恐怖と理不尽、暴力の象徴として笑うクソ漫画。仕事が忙しいときは二週間ほど休むのだが、ほぼ週刊で描かれている素晴らしいクソ漫画。


それにしてもあいつ、アロマ連合のマスターの仕事で忙しいはずなのに、一体どこにそんな暇があるんだろうか? 有能なやつは、やはり趣味の時間もしっかり取るんだな。

(一応、初めての読者のために説明しておく。〈ドコドコさん〉というのは一番人気が高い真っ黒なOBAKEだ。台形や六角形など、いろいろなタイプがある。とつぜん現れては「ココドコ? ドコドコ?」と地名を尋ね、答えられないと食べられてしまうのが一般的な見解。地名だけじゃなくアドレスも詳細に答えないといけない説もあって、日夜議論が行われている。ちなみにオレは〈トオルヨくん〉派 byオレンジ)

 

この週刊ドコドコ、おもしろいことはおもしろいのだが、ひとつ難点がある。ラベンダーが個人的に描いているものだから、ラベンダーの部屋に忍びこまないと読めないということ。


さてと、用は済んだ。とっととこの部屋からズラかろう。


え? 出る前にラベンダーの部屋の描写をしろだと?
 

悪いがそんな暇はない。女の部屋に忍びこんで、いちいち何があるとか、あそこがああなってるとか、そんなこと説明してるやつおまえ見たことあるか!? 頭おかしいだろ、そんなやついたら! グランドピアノやギターといった楽器類、パソコン、青と白の線が入ったマリンボーダーのトートバッグ、ポールハンガーに掛かったカラフルな帽子や女優帽、ソファに脱ぎ捨てられたシャツ、あとは〈ドコドコさん〉のグッズがいっぱいあるだけだ。これでいいだろ?
 

オレは自分の香りを残さないよう意識して部屋から出ようとした。そして出口へと視線を向ける途中、床から天井まである大きな絵画が目に入った。
黒いスーツの男性が雪道を走っている絵だ。

(〈ドコドコさん〉ではない。一応コメントしとく)

うーん、ラベンダーの私物にしてはイマイチなセンスだな。

 

(オレがそう思ったのは本当だ。ラベンダーはセンスだけはやたらいい。さすが長生きしているだけはある。3200――おっと。またチクられるな。実際、現在パリのルーヴル美術館に展示されている【ミロのヴィーナス】の両腕や、【サモトラケのニケ】の顔をぶん取っていまの形にしたのはラベンダーらしい。そのセンスはすごいが正直、想い出の品でもなけりゃこんな意味のわからない絵は置いておく価値もない。せっかくだからオレが新しい絵を描いてやろうと思ったが、部屋に入ったことがバレるのでやめておく)

 

それにしても、この絵ってこんな絵だったっけ? 雪道を男が走っている絵ではなかったような……。いや、興味はないのであまり見たことがないから、やはりオレの気のせいだな。
 

そしてオレが去ろうとした瞬間、額縁の中の絵が確かに動いた。
 

なんだ!? 雪道を走る男がどんどん大きくなってこっちへやって来ているように見える!
 

オレは霊視してみた。すると、どうやらこれはポータルになっているようだ。
なるほど。これはラベンダーの仕事道具だったのか。ラベンダーに用があるやつはこのポータルを通って会いに来るらしい。道理で、ラベンダーにしてはセンスのない絵を飾っていると思ったら。それにしても絵のポータルとはオシャレだな。

 

(ポータルというのはそうだな……ドアだと思えばいい。ある空間からある空間へ移動できるドア、それがポータル。高質なものになればなるほど繋がる空間も増えるし、より遠くへ行けたりもできる。非物質界にもUFOの発着場はあるが、近い空間へ行くならポータルのほうが便利だ。部屋に設置できるし、絵にしておけば身内の限られた精霊だけで使えるしな)

 

こうしておけば、もしマノンやガトフォセが部屋に入ってきても間違って使うことはないだろう。ま、入ろうとしても人間には肉体があるから入れないが。
 

オレは感心した。この絵のポータルはどういう作りになっているんだ? おそらくアロマ連合から支給されたものだろうから、そこそこレベルの高いポータルにちがいない。ポータルを使ってラベンダーの部屋へ来ようとしているやつを察知して、絵として知らせてくれるのか。
 

どんな仕組みで察知しているのか、ちょっと気になるな。たとえばだが、オレがどこかのポータルの前でラベンダーに会いに行こうと強く念じれば、オレも絵になったりするのかな。このポータルのアドレスを知っていればの話だが……
 

しかし絵の中のこいつは、どうして雪道を必死に走ってラベンダーに会いに来ようとしているんだ? マヌケな絵面だ。こいつは一体何者なんだ?
 

オレは絵をにらんでいた。これがポータルであることをすっかり忘れて。

 

次の瞬間――

「うわッ、ダッがぁは!!?」
 

絵から出てきた男がオレとぶつかり盛大に転んだ。
「ぐっふウッダ!!」
 

オレはいきなり絵から飛び出してきた大人の男に跳ね飛ばされてしまった。顔が胸にぶつかって視界を奪われたあと、あろうことかヤツはオレの腹にヒザ蹴りを入れてきたのだ! 信じられるか!? 人間だってドアを開けるときは、前に人間がいるかもしれないからそっと開けるだろ? それがコイツは、ポータルからいきなり出てきやがった!
 

まったく、マナーというものを知らないらしい。

 

オレさまが怒鳴ろうとしたとき――

「助けてくれ、ラベンダー、サンタ界が大変なんだ!」
「へ? なんだって?」
 

とつぜん現れたスーツ姿の男は、どうやらだいぶ混乱しているようだ。言い終わってからオレがラベンダーでないことに気づいた。
「だ、誰、ですか?」
「いや、おまえこそ誰だよ。ここはラベンダーの部屋だぞ」
「それは失礼しました。私はサンタの三太と申します」
 

なに……こいつ、サンタだったのか。
 

スーツを着た黒髪のアジア系男性は、サンタというより発展途上国のそこそこやり手のビジネスマンと言ったほうがしっくりくる。毎日暮らしに苦労していて、仕事の現場も、工夫に工夫を重ねてやっとまわっているところで働いてそうだ。
 

それにしても、このサンタの三太って名前!
 

バウムクーヘン州知事とかプレジデント〈ドコドコ〉ぐらいインパクトがあるぞ。
サンタはなぜかオレのことを注意深く見ていた。
「ああ、オレはオレンジ、よろしく」
「え、あのオレンジの花だったのか」

オレはいまの言葉に花が高くなった。

(植物の精霊は花として扱われると気分をよくする。
 

マヌケそうなヤツだと思っていたが、なかなかマナーを知っているらしい。
ちなみに植物の精霊を怒らせるのは簡単だ。“ニンゲンみたい”なんて言えばすぐ怒る。
数えるときも、ひとりふたりじゃなく一輪二輪と数えたほうがいい。
気にしないやつもいるが、それで激怒する花も中にはいる。
ひとりふたりという数え方をするのは精霊だけじゃなく人間もするからな。
人間とは区別したいんだってよ)

 

「いや、ちょっと待って」
「どうかしたのか?」
「君は、どうしてラベンダーの部屋にいるの?」
 

さてと、ふむふむ……どうしてオレがラベンダーの部屋にいるかだと……。
こいつ! 痛いとこを突いてくるな。疑うようにオレを見ている。
どうやって言い訳しようか悩んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。


「ラベンダー? 帰ったの?」

 

マズい、マノンだ! このサンタが派手に転げまわったせいで、ラベンダーが帰ってきたと思ったのか。このままマノンに部屋に入られたりすれば、それこそおしまいだ。もう二度と週刊ドコドコを読めなくなるし、最悪ラベンダーに変態扱いされる。
 

オレは片手を上げドアに念力をかけて封じた。
「あれ? 開かない」マノンは不思議そうな顔をしている。……はずだ。見てないからわからん。すまないな。もしかしたら、飛べなくなったピーター・パンみたいな顔かもしれない。
「あれは誰?」サンタが静かな声で尋ねた。
「人間だ。ここ、ガトフォセ香料店の経営者の娘」
「なら、どうしてドアを封じる必要がある? 姿は見えないだろ」
「霊視ができるんだ」
「なんだって!」
「人間に姿を見られて大丈夫か? おまえの様子から察するに、緊急事態なんだろ?」
「…………」

 

アジア系サンタは心底困り果てた顔になり、黙りこんだ。その様子は、四十代に突入し上司と部下との人間関係にかなり疲れているサラリーマンのようだった。当てずっぽうに言ったが、どうやら緊急事態なのは本当らしい。


ラベンダーはそこらへんの霊じゃない。植物界の最高意思決定機関――『日の昇る評議会』の下に設立されたアロマ連合のマスターで、かなり偉い立場の精霊だ。地球の各世界でその名は知られているし、仕事なんてそれこそたくさんある。ラベンダーやオレの所属する組織、アロマ連合に依頼が来るならわかるが、ラベンダー個人にサンタが直接依頼しに来るというのは妙だ。アロマ連合に隠しておきたい何かがあるのか。

 

とりあえずオレとしては、マノンのおかげでなんとか話題をそらすことができてひと安心。
「…………」サンタはさっきからなぜか固まっている。考えがまとまっていないのだろうか。
 

よし、もうひと押ししてみるぜ! オレは若干迷いながらも、トドメの一撃をおみまいした。

「オレはアロマ連合のナイトだ。ラベンダーは仕事で当分帰ってこない(と思う)が、どうだ? オレで良かったら協力するぞ?」
 もちろん内心ではそんなことこれっぽっちも思ってない。社会人の読者ならわかってくれると思うが、やらなくていい仕事はしたくない。オレはこのガトフォセ香料店を拠点としたフランスでの日々に満足している。

 

(ラベンダーとの共同作業、精油計画で人間界に精油を普及させることがいまのオレの主な仕事だ。考えることはいろいろあるが、中世の頃に比べればラクな仕事だ。しかし時間に余裕があるはずなのに、休暇はあまり取れない。世界大戦の後始末に多くの人員が駆り出され、オレみたいな末端にも仕事がまわってくるからだ。過労死できない分、精霊はキツい。まぁ、休むときには休むが)

 

だが、だが! もしこいつがラベンダーに会って――そういえば君の部屋にいたオレンジってさ――なんて言ってみろ。ラベンダーに変態扱いされた挙句、オレはボコボコにされちまう。このサンタをなるべくラベンダーに会わせたくない。会うにしても、こいつが、オレが部屋にいたことを忘れるくらいには時間をおきたい。というわけで、嫌々ながらもあんなことを言うしかなかった。
 

オレは手のひらから宙にアロマ連合の所属を意味するエンブレム、フラワー・オブ・ライフを出現させた。このエンブレムは大きな円の中に小さな円がいくつもあり、花の集まりのようにも見えれば、六芒星のようにも見える不思議な模様をしていた。エンブレムは虹色に輝きながら、赤、黄色、緑、水色、青、紫、ピンク、とそれぞれの色が右回転にくるくるまわり、振動しながらきれいな光の波動を放っている。
「…………」
 

サンタは辛酸をなめるような、苦渋に満ちた表情で自分の足元を見つめている。
 

しばらくして、オレの顔をじっくり見たあと、また自分の足元を見て、オレの顔を見て、足元を見て、というのを何回も繰り返した。そんな光景を見せられているオレの気持ちにもなってほしい。神様、どうか、頼む! こいつにイエスと言わせてくれ! そして、オレがラベンダーの部屋にいたことをどうか黙らせてほしい。
 

長い沈黙のあと、とうとうサンタは、コクンと顔を縦に振った。よっし!
「手伝ってもらう前に言っておくが、口外しないと誓えるか?」
「ああ、もちろんだとも。誓うとも。なんなら礼名契約を結ぼうか?」

 

(礼名というのは、一人前の精霊が名乗るもうひとつの名前だ。この礼名を使って歌ったり呪文を唱えて、宇宙に対して自分はこうしますよと宣言することによって、大量のエネルギーを得られるんだ。その分、単純なことしかできないが。だから、礼名詠唱で誓うということは、自分の行動が本当に制限される)

「……ああ、頼む」サンタは重々しく、ゆっくりと声を出した。
 

オレは急に怖くなった。礼名契約を結ぶというのに、いまだにオレのことを疑い深くジロジロ見てくるこいつもそうだが、なにやら本当にヤバい雰囲気がある。オレの頭の中のセンサーが警報を鳴らし始めた。関わるのは危険だ、そう言っている。
 

いい……のか? 引き返すなら、いまだ…… 
「どうした? 契約、しないのか?」
 

サンタ野郎は差し出した手をぶらぶらさせながら、顔を傾げてニヤけている。
 

!? こいつ、オレのことを試してやがる! ナメやがって。
オレは速攻でクソサンタと握手した。


「『天界の果実』の名において誓う――植物界のオレンジは、サンタ界の緊急事態の内容について、方法の如何を問わず他者にはいっさい口外しないと誓う」
 

握手した手の周りがパァっと輝くと、光の鎖がお互いの手から出てきて相手の手に絡みつくと消えた。契約は済んだと言わんばかりにサンタが手を引き抜こうとするので、オレは堅く手をにぎる。飛びっきりのスマイルをくれてやった。今度はこっちの番だぜ!
「何やってるんだ? 早く手を離してくれ」
「今度はおまえが誓う番だ」
「なぜ俺が誓わないといけない? 手を離せって」
「まあ聞けよ。オレはいまからおまえが話す内容については、確かに口外しないと誓ったが、手伝うかどうかは別だ」
 サンタの表情が強張る。眉根をよせて強くにらんでくる。
「……脅しか? 何が目的かは知らないが、それならもうおまえには頼まない。ラベンダーが来るまでここで待つ」
「急いでるんじゃないのか?」
「おまえは信用できない。しばらくここで待っても来ないなら、アロマ連合本部に行ってラベンダーを呼ぶ!」
 

ラベンダーがいつ帰ってくるのかは知らないが、もしこの部屋にオレがいたことがバレるととにかくマズい! 必死に頭をまわらせて、このサンタがされたくないことを思いつく限りまくしたてた。


「オレの話を聞いてくれ。オレはおまえがここに来たことについては好きに言いふらすことができる。サンタの三太がラベンダーを慌てて頼ってきたこと。サンタ界が大変だと助けを求めてきたこと。それから、これからおまえが話す内容について口外しないと誓ったこと。いま言ったことをアロマ連合の『真の薫香』に報告する」
「言えばいい。俺は困らない」
 

オレはサンタの手を離し早々に連合本部へ向かおうとした。が、三歩と歩かないうちにサンタがオレの腕をつかむ。力が強くてちょっと痛い。
「わかった! わかった!! 俺の負けだ! 本当に緊急事態なんだ、頼む」
 

冷や汗がびっしり出てきた。内心ダメかとあきらめていたが、最後まで行動してよかった。
「俺は何を誓えばいい?」
「オレがラベンダーの部屋にいたことを口外しないと誓ってくれ」
「おまえ、やっぱりストーカーか!?」
「断じてちがう」――やっぱり?
「くそ! こんな状況じゃなかったらこんな契約なんかッ――」
「しないならしないで構わんぞ。『真の薫香』に直接報告するから」
「おまえなんかが『真の薫香』に直接報告できるわけないだろ」
「オレの師匠なんだ。じゃあ連合本部に行ってくるよ」
「待て、待てったら! するよ、『迷い仔――」サンタは強引にオレと手をつないだ。
「絶対にオレがこの部屋にいた事実を、誰にも教えないという契約内容になるよう結べよ? もし詠唱にあいまいな表現があってみろ! 『真の薫香』にあることないことまで言うからな」

 

(契約というのは大切だ。自分ではちゃんと誓ったつもりでも、もしあいまいな表現をしてしまえば好きに解釈されてしまう。どういう言葉を使うかで、自分の立場を有利にも不利にもしてしまうから、一番気をつけなければいけないことのひとつだ。読者のみんなも精霊と契約するときは気をつけろよ。ま、賢い諸君ならそんな愚行はしないと思うが)

 

「……ちょっと言葉を考えさせて」
 

しばしの間サンタは目をつむり、思考にふけった。
 

そして、呼吸を整える。息の音が聞こえた。オレの手をつかむサンタの手に、力が入った。

「『迷い仔の目印』の名において誓う――サンタ界の三太は、植物の精霊オレンジが万事協力してサンタ界を救ってくれたあかつきに、植物の精霊であるラベンダーの部屋に侵入していた事実を誰にも教えず、死後の次元まで持って帰ることを誓う」
 

ふたたび光の鎖が現れて、オレとサンタの手を結んで消えた。
「ふむ、いいだろう」
 目をつむって聞いていたが、まあ悪くない詠唱だ。最初のフレーズを除いて。
「この変態野郎」
「おい、言葉には気をつけろ。オレはまだおまえの話を聞いてないからな。好きなように解釈して、サンタ界の危機的状況をねつ造して報告できるんだからな」

(契約内容の穴とはこういうこと。
 こういう風にして契約相手を追い詰めていくことができる。よし、学んだな?)

「そっちこそ、協力しないとどうなるか、わかってるんだろうな?」
 

サンタが言い終わるか終わらないかのうちに、恐ろしいことが起こった。
バッキ―――ンと、金属製のものが割れるようなかん高い音が響き渡った。念力を破る音だ。


ラベンダーの部屋のドアが開かれたのだ。