ラベンダーさんの育て方

植物擬人化小説

第15輪 彼女はラベンダー

姉上、これはマイナデスコールです。早急に手を打たなければなりません

スペアミント

 

砂時計とスペアミント


 ひとつオレのことを教えといてやろう。
オレは、しつこくされるのがキライだ。ただしかわいい女の子は別だ。
むしろ自分がしつこくする。
そう。だから、こうやって鳥のバケモノたちに追いかけられるのはウンザリだった。
サッと行ってカッコよくサッと三太を助けたオレは、ビュビュンと逃げていた。
「あんな、あんっな助け方で、死んだらどうするつもりだ!?」
「……」
 具体的にどう助けたのかは内緒だが、カッコよく助けたのは間違いない。
「あれでカッコよく助けたつもりか? もうちょっと考えてくれ」
 うるさいラップ野郎(サンタの蔑称)だ。オレがカッコよく助けたことに間違いはないが、そういう意見もあるだろう。
オレはいま、三太と共にハヤブサの姿で逃げちゃいるが、もうストレスでいっぱいだった。遠くに見える観覧車の中で、ペパーミントとマノンがデート気分を満喫してるのが目に入る。あの野郎、花が頑張っているときに、何やってんだ! 遊んでないで早く世界樹へ行けよ! マノンとの結婚は許さんからな!
それもこれも、全部人間のせいだ。
最終的に星論(地球全体の意見)がいまの地球人類を追放、あるいは滅ぼす意見で大半を占めるようになったとき(まあ、もうかなり傾いちゃいるが)、すぐにそっちに寝返ろうと思う。争うよりもゲームしてたい。ソモロン・アドベンチャーの最新作が楽しみなんだ。
「オレンジ、聞いてるのか? ぼくは逃げるのでいっぱいだ、なんとかしてくれ」
 あぁ、自由気ままに生きていたい。いっそのことジャパンへ行ってのんびりしよう。都会は忙しすぎる。神社で住みこみで働こうと思うんだ。神の資格は取ったら仕事が増えるから取らないが、オレの植物の輸入関係とか、ガーデニングとかでいろいろ手伝えることはある。あとは変な霊を追い払えるし、ナンパのテクニックも教えてやれる。
「ぼくにはもう、魔法や超能力を使うエネルギーもない」

(ぶっちゃけた話、おまえらが神様とか言ってるやつは、人間だ。わかりやすく言えば、宇宙人だな。文明や精神レベルの高さこそちがうが、オレから見れば宇宙人も人間も同じだ。区別する意味がわからん。つまり、広い意味ではおまえら自身が神様ってこと。
 ちなみに非物質界で神とは、地球の発展に貢献する管理者になるための資格のこと。
ま、気持ちはわからんでもないが、現実なんてそんなもんだ。べつに真に受ける必要もないが)
 
ヨーロッパとちがってジャパンなら、制度もちょろいし、なんとかなるだろう。こないだ合コンで知り合ったやつが神社で神をやってて、連絡先も交換したから、そのツテで働かせてもらえるはずだ。東京は地球の中じゃド田舎だから、アロマ連合よりも楽に働けると思う。
「もう追いつかれる、あそこに隠れよう!」
「……ああ」
モチが食べたい。あの死ぬかもしれないクレイジーな食べ物がオレは食いたい。
いかん! ……疲れてる。いまのは忘れてくれ。
「ヤバい!」三太は慌てた。
「ぐぁ」
 怪鳥が吐いた光線にハヤブサたちは翼を焼かれた。
落下したオレたちは変身が解けていた。うっ、気持ち悪い、目がぐるぐるまわる。どうやら大きなティーカップに乗ってしまったようだ。それにしても趣味の悪いティーカップだ。自分のことを貴族か何かだと勘違いした偉そうなババアが集めているような、悟りを開いても理解できないセンス。おえぇ。さすが魔界。

(酔ったこともあるが、吐いたのはどちらかというと悪趣味なセンスのせい)

 ティーカップに乗って向かい側からやってきたサンタたちが、手を伸ばしてくる。定員オーバーだぞ!
三太は狂ったようにハンドルをまわしていた。
「まて、まわしすぎだ、う、きもちわるい!」 
 首にひやりと何かが触れた。見れば、後ろのカップのサンタがオレの首をなでていた。――瞬間キバをむき出しにする。「わぁあ! 後ろ!」乗りこんできやがった。
ロイヤル・オレンジ号(いま名づけてみた)はキャプテン・オレンジを差しおいて水夫のサンタが舵を取っているため、あっちへ行って、こっちでまわって、大変だった。
前のカップから振りまわされた剣をサッとかわすと、ロイヤル・オレンジ号に侵入したサンタの首が飛んだ。遠心力のパワーってすごいッ――愚かな水夫が急に進路を変えたおかげで、キャプテン・オレンジはひとり敵船へ飛ばされた。大砲はついてないのに……。
「ぎぁやぁぁ!? ヘタクソめ!」3人のサンタが口の中にビッシリ生えたキバを見せつけてくる。「香れ香れ香れェ!」オレは慌てて匂いを出したが、出す匂いを間違えてしまい相手をパワーアップさせてしまった。気持ち悪く膨れ上がったサンタに首をしめられ持ち上げられる。うぐぐ。
 そのとき、ティーカップが転倒した。ロイヤル・オレンジ号がぶつかったのだ。ここが海じゃなくてよかった。
 高速で移動するティーカップを避けながら、オレは念力で三太の顔をはたいた。
「落ち着け、変身してあそこへ逃げるぞ」

 オレたちはアースバザールと呼ばれるショッピングエリアへやってきた。
アーケードの中にひらりと舞いこんだ2匹のハヤブサは、近くの帽子屋に飛びこんだ。
中にいたふたりのサンタは不運にも、ハヤブサたちにポキポキと首の骨をへし折られ倒れた。
「ごめん、こうするしかないんだ」
「相手は霊だ、これぐらいじゃ死なん」
 急いでカウンターの影に隠れると、鳥のバケモノたちは店の前を通り過ぎて行った。
 オレは超能力で金縛りをかけて、サンタの身動きを封じた。動けないとは思うが、油断は禁物だ。
「しばらくここで休憩しよう」
「そうだね」
 オレの提案を受け入れた三太は、包帯をはずして赤いサンタ服に着がえた。
「オレンジの香りはすごいな。本当なら動くこともできない傷なのに、もう治ってきてる」
 オレは花を高くした。
「あたりまえだ。地球きっての大精霊だぞ」
「ぷはは、おまえってホント、カッコつけたがりだよなあ」
 だが、いまのセリフにはカチンときた。
「つけたがりではなく、実際にカッコいいのだ。オレ様はおまえみたいなダサンタとはちがう」
「はいはい。それにしても、『黄金のリンゴ』がいればな」
「その名前は聞きたくなかった」
「おまえの師匠と同じ、デルタフォースの一角『黄金のリンゴ』。彼がいれば、サンタ界全体を浄化して、上の次元に戻すことも可能だと思わないか?」
「伝説上の精霊だ。大手のメディアすら知覚できない神だぞ」
「人間にとっては、ぼくたちだってそうだろ?」
「……」
「彼はリンゴ、君はあの柑橘系を代表する精霊オレンジ。しかも『真の薫香』の弟子だ。彼みたいに、君も相当な実力があるはずだ。ずっと疑問に思ってたけど、なぜ成長しない? 大人になれば、もっと強くなって戦えるだろ?」
「――ふん、大人になるだと? バカらしい。やることは冥王を救出して、この魔界から脱出することだ。大人になるまでもない」
「余裕ぶってる場合か? ペパー皇子でさえあんなに苦労してるのに」
「おまえみたいにヘタに成長してエネルギーを消耗しても、意味がないだろ。ここぞというときに大人になるから、フルパワーを出せるんだ」
「――出し惜しみ過ぎて、そのまま枯れないことを祈るよ」

(オレたち霊は、基本的にどんな姿にもなることができるが、自分の大人の姿に変身するのはちょっとワケがちがう。かなりの修練が必要だし、大人になることで、全身全霊の力を発揮できるようになるからだ。もちろん、オレも大人になれる)

「……」
「……」
 空気が気マズい。オレは話題を変えることにした。あまり話したい話題ではないが、他に思いつくものもない。
「『洗い草』だって、あまり成長はしない」
「ラベンダーか。ははっ、他に話題なかったの?」
「うるさい」
「いいよ、変えてあげる。あいつ、カワイイよな」
「カワイイ? ああいうのはおっかないって言うんだ。やることがムチャクチャだ」
「……うん、この前の世界大戦でも、やらかしてたね」
「アロマ連合のマスターが、公の場でニンゲン根絶宣言だぞ」
「中継見ててヒヤッとした……」
「【エルサレムの大悲劇】を知ってるか?」
「あれは、災難だったね。あの事件のせいでエルサレムは、争いの絶えない場所になった。だけど、【百年戦争】でフランスを救ったのも事実だ。いまのフランスがあるのは、ラベンダーがいたからだ。【愛の説得】は知ってる?」
「ローマ帝国では、恋愛方面で活躍してたらしいな」
「ぼくその話大好きなんだよね。恋人同士を結ばせるために、ヴァレンティヌス司祭を説得、ロマンがあるよね」
「一番すごいのは17世紀の【第5次ペスト戦役】だ。あの大ペストをついに浄化することに成功したんだ、そのおかげで疫病の勢いが弱まった。あいつは英雄だ。故郷のエジプトが恋しくて、人間を操作してオベリスクをフランスに持ってくるよう、手引きしたりもするが……」
「クズだよね」
「クズだな」
「ヒステリックだし」
「自己中心的だ」
「ベンダーってすぐイライラするんだよね」
「まず、ヒトの話を聞かないしな」
「ぼくは植物じゃないから文香は読めないのに送ってくるし、普通の手紙を頼んだら、字が汚すぎて解読するのに時間がかかった。絵はあんな上手いのに」
「基本的にヒトのこと考えないんだよな、あの花」
「なんであんなすぐ怒るんだろ? もっと大人になって欲しいよね」
「マスターになって、疲れてるんだろうよ。それだけ激務なんだ」
「ヒトの名前を間違えることも、しょっちゅうだし、植物のくせに木が抜けてる」
「話すときは、フランス語で話しかけてるか?」
「そうそう! 英語で話したら不機嫌になって、一年間は無視された。フランス語で話さないと返事しないんだよね」
「なんかオレたち、けっこうあいつのこと知ってるな」
「いやだな~」三太はうれしそうに言った。
「いつからの知り合いなんだ? オレがベンダーと出会ったのは、【第五次ペスト戦役】後のUKだ」
「ぼくがあの花と初めて会ったのは、ローマ帝国の劇場でだったけど、まったく変わってないよ」
「――そんな昔から知り合いなのか!」
「割と最近さ。中世の魔女狩りのときには、仕事を手伝ってもらったこともあるよ。あの頃は今季以上に大変だったね。人々をキリスト教から守るために、プレゼントを配ってたんだけど、とにかく辛酸をなめた。キリスト教=正義だという固定観念の強い人がたくさんいて、せっかく身を守るためのアイテムを渡そうとしても、受け取ってくれなかったんだ」

(サンタは普段から人間にプレゼントを配っている。べつにクリスマスに限った話じゃない。じゃあどうしてクリスマスとサンタが結びついたのかって? オレたち精霊の仕事は人間の動きに合わせて変化するためだ。12月の人間社会は忙しいだろ? それにせっかくサンタに夢見てクリスマスを祝ってるんだ、だったら人間に合わせてあげようぜって話らしい)

「キリスト教といえば、あのニュース、【モホーク族児童大虐殺】(うちの作者はビビらない。残念だったな)は、マズかった。あれのせいで、植物至上主義者の意見がまかり通るようになったからな。霊視もロクにできないヤツらは、しなくていいから周りの現実をまず見ろってんだ」
「ねー、地球の人間って、なんかぽけ~っとしてるよね。歴史も進化論も、地球だけで完結させる考え方だもんねー、笑っちゃうよ」
「話戻すけどおまえさ……」
「……?」
「ラベンダーのこと大好きだろ!」
「な!? それはおまえだろ!」見ろこの慌てっぷりを。
「いや、かんべんして欲しい。あんなのとつき合っちまったが最後、もう他の女と遊べない」
「最低だな……」
「好きならとっとと告白しちまえよ」
「いや、ぼくもかんべんして欲しいね、他に好きな子がいる」
 はぁ~んんっ、ハヤブサは背伸びした。ゴージャスな香りを出して鏡の前でめかしこんだ。
「こんな状況だってのに恋愛話で盛り上がるなんて、どこの次元も男はバカだな~」
「エネルギーはないけど、体力は回復した。もう行こう」

 流行りのモノを取り入れ、ばっちりキメた2匹のハヤブサは店を出ると、一直線に世界樹へ飛んでいった。